エネルギー公社

 今日はドイツのエネルギー公社について説明します。自治体が出資して作る会社で、電気・ガス・水の供給などをしています。日本ではエネルギー公社という言葉は耳慣れませんが、いったい何をしている所なのでしょうか?先ずは日本の例を見てみましょう。日本の水の供給のことを思い浮かべてください。上水道のサービスは地方自治体の水道局が行っていますね。これらの水道局は地方公営企業と呼ばれ、公共のサービスのために地方公共団体が経営しています。水道だけではなく交通、観光、ガス事業、さらには発電事業も地方公営企業として地方公共団体が経営している場合があります。例えば熊本県企業局(地方公営企業)では発電事業(水力発電所7か所、風力発電所1か所)、工業用水道事業、駐車場事業を行っています。金沢市では全国唯一の市営の電気事業者として金沢市企業局があり、この企業局では発電事業の他にガス・水道・工業用水・下水道事業にも取り組んでいます。
 さてドイツの公社ですが、様々な形があります。自治体が100%出資するもの、自治体と企業が出資する第3セクターのようなもの、複数の自治体と企業が出資するものまであります。組織形態としては株式会社や有限会社といった形を取ることがほとんどです。これらの公社は地方公共団体に暮らす住民に、“生活するのに必要なものを確実に”提供することを目的に事業を行っています。この公共サービスの内容はそれぞれの公社によって異なっていますが、主に電気(発電、送配電、売電)・ガス・水道事業です。その他にも交通・駐車場・通信事業などを経営しています。ここではエネルギーのことに焦点を当てていますのでドイツのこれらの公社のことをエネルギー公社と呼ぶことにします。日本にもこのようエネルギーを供給する公社があります。札幌市が銀行や電力会社などと共に出資する(株)札幌エネルギー供給公社は1986年に設立された公社です。この公社は、省エネと経済性のある安定したエネルギー供給をめざし、そして環境保全にも効果的な地域熱供給をしています。札幌駅北口の再開発地区22haにあるオフィスビル、商業施設、学校などに温水と冷水を供給しています。ドイツの公社のように電気は扱っておらず、熱だけの供給ですが、この札幌の会社もドイツのエネルギー公社の仲間に入れることができると思います。
 ドイツのエネルギー公社の例を見てみましょう。まずは自治体が100%出資しているシュベービッシュ・ハル エネルギー公社です。この公社があるシュヴェービッシュ・ハル市はバーデン・ヴュルテンベルク州にあり州都シュトュットガルト市から北東に約50kmの場所にあります。このエネルギー公社は約40年前の1971年から有限責任会社として、自治体100%出資の、歴史がある、環境に配慮したエネルギー公社としてドイツ国内でも評価の高い公社です。従業員数は2012年現在約480人ですが、この10年間で2倍になりました。シュベービッシュ・ハル エネルギー公社はシュヴェービッシュ・ハル市以外にも14の自治体の電力網を所有し電気を配電しています。
 同公社の目標は100%再生可能エネルギーで地域の電力と熱を生産することです。環境に配慮したエネルギー供給を地域住民に提供することを自らの責務とし、地域に根ざしたエネルギー公社としてこの目標に至る最善の道を模索しています。

 この様なエネルギー公社による電気の配電・販売が出来るのは、ドイツでは電力市場の自由化がなされているからですが、日本では今の現況ではドイツのように、各家庭に電気を販売することは出来ません。しかし日本でも福島原発事故後やっと家庭部門での電力自由化が本格的に議論され、数年後には家庭も電力会社が選べるようになっていくようです。生活するのに必要なもの(電気)を確実に供給してくれる、自治体によるエネルギー公社の実現も日本でもそう遠くないのかもしれません。このような公社設立が可能な機会を私たちは手にしないといけないのではないでしょうか?そのためには電力の自由化が前進するように私たち一人一人が声をあげていく(要望を伝えていく)必要があると思います。
 次回はドイツのエネルギー公社の例として複数の自治体とガス会社が共同出資をしているバーデノバエネルギー公社の紹介をします。