市民による電力供給会社(ドイツの市民活動)

 今回は黒い森にあるシェーナウ(人口約2500人)という町の電気に関する市民活動について紹介します。シェーナウ(schoenau im Schwarzwald)のUrsula Sladekさんが4月11日に世界のもっとも重要な環境賞の一つで、グリーンノーベル賞と言われているゴールドマン環境賞を受賞したニュースをお知らせしましょう。Sladekさんはシェーナウに市民による電力供給会社を設立した中心人物です。この受賞の理由としてシェーナウのモデルは地域分散型の電力供給のお手本となり、Sladekさんはこの電力会社(EWS:Elektrizitaetswerke Schoenau)のリーダーとして他の経営者と共に電力供給の市民活動に対して大きな貢献を果たしたとしています。
 きっかけは先日25周年を迎えた1986年のチェルノブイリ原発事故でした。放射性物質を含んだ雲は黒い森にも到達し、シェーナウでも不安が募りました。子供を持つ親達は特に自分たちの子供の心配をし、「原発のない未来のための親の会」を設立しました。5人の母親であるSladekさんは「私のこの活動の動機は子供の将来のためでした」と語っています。
 90年代の前半にシェーナウではKWR電力会社との電力供給の契約の更新が迫っていました。シェーナウに電力を供給していたKWRの電気料金の設定は基本料金が高いせいで、使えば使うほど電力価格は割安になり、節電すればするほど割高になるというものでした。これに対し親の会は使用料に応じて電気料金を計算する比例料金体系を要求し、脱原発のための再生可能エネルギーコジェネレーションの導入、コージェネレーション発電の買い取り価格の引き上げを求めました。しかし電力会社はシェーナウの市民が進めていた再生可能エネルギーコージェネの促進活動を妨害し、さらに市が早期に20年の更新契約をするならさらに10万マルクを市に支払うことを申し出てきました。そこでこの市民グループは市が契約を更新しなければ、この申し出と同額(年間25000マルク)を市に支払うと提案しました。この市民の申し出にもかかわらず市はKWRとの契約更新を決定しました。この市議会の決定の是非を問うために1991年の10月に投票が行われ56%の支持票を得て市民グループが勝ちました。
 電力を自分たちで供給するために、1994年ショーナウの市民グループは電力供給会社EWSを設立しました。1995年の11月20日に市議会はEWSに市の電力供給を認可しました。しかし今度はKWRによって再び市議会の決定を問う市民投票が開催され、約85%に達する投票率の中で52,4%の支持を得てEWSが勝ちました。しかしまた送電網の買い取りという問題が出てきました。650万マルクの価値しかない送電網に前シェーナウ市の電力供給会社KWRは870万マルクという高値を要求してきたのです。EWSは650万マルクでも高いと考えていましたがこの要求(870万マルク)に対し送電網を買い取ってから訴えることにしました。400万マルクというのがEWS側の見積もりでしたが、この金額は有志の市民の経営参加とGLS銀行の“シェーナウエネルギー基金”を通しすぐに集まりました。そしてこの法外の金額を集めるためにドイツ全国で大々的な募金活動を始めたのです。様々な環境保護団体(BUND、NABU、Greenpeceなど)も募金を呼びかけ、この募金活動で集まったお金は200万マルクに達し、余分に必要な金額を手にすることが出来たのです。このキャンペーンは無料で新聞に公告を出したり、広告代理店の協力で「(原発産業にとって)俺は厄介者さ」というキャッチフレーズによって大成功に至ったのです。結局570万マルクをKWRに支払い送電網を買い取りましたが、その後350万マルクが適正価格であると裁判所は判断を下しています。
 EU電力自由化指令に従って1998年にドイツは電力市場の完全自由化を実現しました。これによってドイツでは顧客は自分で電力供給会社を選べるようになったのです。この自由化以来、原発以外からの電気、環境にやさしい電気を求める人たちが増えていきました。EWSもドイツ全国で環境にやさし電気の供給をうたい、以前からの多くの賛同者がすぐさまシェーナウの“電力の反逆者”と呼ばれるEWSの顧客になったのです。そうして始めは1700世帯の顧客数だったのが2006年には3万7千世帯に、そして現在(2010年12月)では10万世帯を超える顧客といくつかの大きな企業を顧客として抱えています。以前紹介したGLS銀行、チョコレート会社のリッター、Bio食品店のAlnaturaやビオ豆腐製造会社Life Food社などがあります。
 現在(2009年)EWSの供給する電力は再生可能エネルギーが95,9%(水力発電の78,4%が6年より新しい。)と天然ガスが4,1%(環境にやさしい効率のよいBHKW(コジェネレーションシステム)を使用)となっています。
EWSには新しい環境にやさしい発電器を増やしていくために、Sonnencent(ソーラーセント)という制度があります。1Kwh当たり少しずつ顧客から助成のためのお金を徴収します。顧客は0,5セント、1セント、2セントから選び環境にやさしい電気の製造に貢献できるのです(EWSの料金システムは基本料金が月6,9ユーロで23セント/kWh)。今までに(2010年12月まで)1750基の環境にやさしい発電施設がソーラーセントの助成プログラムによって誕生したのです。特徴的なのはこの発電施設はEWSの所有ではなく顧客の所有物なのです。
 このような市民による反原発から起こった環境にやさしいつまり人間にやさしい電力を供給する会社の設立という試みは実際に自分の村の原発依存を無くし脱原発につながる道筋を示してくれています。このシェーナウの市民の積極的な活動は、現在原発問題で頭を悩ましている私たち日本人に勇気を与えてくれるものだと思います。ドイツと日本は状況が違うにせよ、私たちは自分たちの手で自分たちの望む社会を造っていけるのだと思います。このシェーナウの事例から脱原発、環境にやさしい社会、幸せな生活のための何かしらのヒントがあるように思います。

Ursula Sladekさん Quelle:http://goldmanprize.org/slideshow/user/321/1387


参照
EWSホームページ(ドイツ語)
資料:市民が主役の再生可能エネルギー普及(遠州 尋美)