エネルギー自給、輸出村2

 今回はマウエンハイムという村の事例を紹介します。この村は2006年に再生可能エネルギーで自給自足に成功したバーデン・ブルテンベルク州では1番目の(ドイツではニーダーザクセン州のJühnde(ユンデ)村に次いで2番目の)“再生可能エネルギー村”です。
 マウエンハイムはボーデン湖の北西約30kmに位置する人口約430人の小さな村です。電力と暖房は完全に地域のエネルギー源で賄われており、ビオガス発電施設の排熱と木質エネルギー源で地域暖房を供給しています。マウエンハイムで鍵となったのはsolarcomplexという再生可能エネルギーを促進する市民による会社です(Buergerunternehmen:シビックアントレプレナー(企業家型公務員))。この会社は2000年に20人の出資者によって有限会社として出発し、現在(2011年はじめ)では共同出資者は700名になり資本は37.500 ユーロから500万ユーロになって、2007年から株式会社として経営されています。このソーラーコンプレックス社は2030年までにボーデン湖の地方のエネルギーを地域の再生可能エネルギー源によって賄うことを目標としています。このビジョンは生態学的な利点があるだけでなく、地域経済にとっても大きな利点になります。つまりエネルギー源を買うお金は地域の外に出て行かずに(石油などのエネルギー源を買うと、油田を持っていない地方、国ではお金がその地域外に出ていってしまいます)自分の地域に購買力として留まるのです。ソーラーコンプレックス社が所有する施設はLangenriedとMesskirchにある太陽光発電パーク、約30の太陽発電施設、Gailingenのビオガス施設、(Mauenheim、Lippertsreute、Schlatt、RandeggとLautenbachにある)地域暖房用の木質チップを使った暖房設備、ザンクトゲオルゲンにある2,3MWの出力を持つ風力発電機があり、これらの発電・発熱施設は2010年には約2400万kWhの電力と2000万kWhの熱を生産していています。
 さてマウエンハイムの話に戻ります。2005年にKCHバイオガス有限会社によってマウエンハイム村に140万ユーロをかけてバイオガス施設が建設され、電力と熱(熱は2006年から)を供給しています。このKCHバイオガス有限会社は村の農家エリッヒ・ヘニンガーさんとラルフ・ケラーさん、近郊のラドルフツェル市のクリーンエネルギー社が共同で出資して作った会社です。バイオガス施設は年間400万kWhの電力を供給しており、これはマウエンハイム村の電力需要の約9倍に当たります。さらに発電時に出る排熱は年間約350万kWhで、村の暖房需要に相当する値です。この排熱は当初村の100世帯のうち66世帯が暖房用として利用し、現在では72世帯が温水配管をつなげています。このバイオマス発電施設では、近辺の180ヘクタールの農地からとれるトウモロコシなどの発酵用植物が年間約6,500トン、近隣の牛小屋からのふん尿が集められ発酵し、発電用ガスを作り出しています。
 このマウエンハイムの地域暖房設備を実現したのが上で紹介したソーラーコンプレックス社なのです。KCHバイオガス有限会社はこの発電時に出る排熱を地域住民の為に役立てようと決めましたが、この100世帯の田舎の村では簡単ではありませんでした。ソーラーコンプレックス社がこのことを聞き、マウエンハイムの地域暖房構想を思いついたのです。バイオガス発電施設からの熱はソーラーコンプレックス社に無料で提供されます。(ドイツの再生可能エネルギー法では、再生可能エネルギー源による発電の際に出る熱を利用すると1kWh当たり3セントが補償されるので、KCHにとっても好都合です。)そうして石油による暖房より安く住民に提供しようとしたのです。ソーラーコンプレックス社は、マウエンハイムがあるイメンディンゲン村議会とマウエンハイム区議会の両方の一致した決定を得て全長約8kmの配水管(約4kmにわたる溝)を設置しました。新興住宅地でもないのに7割もの世帯がこの設備に参加したのは、ソーラーコンプレックス社の地道な説得活動によるところが大きかったようです。説明会だけでなく、村の公民館の一室を借りて個別の疑問点などにも積極的に答えて言ったそうです。こうして、もともと暖房施設を大抵の家が持っていたのにもかかわらず、村の7割もの建物がこのプロジェクトによる地域暖房システムの恩恵を受けているのです。このバイオガス施設からの排熱のみで夏場の温水はまかなえますが、冬期には不足します。この不足分を補うために、ソーラーコンプレックス社は冬の半年だけ稼働させる約1メガワットの木質チップ(木材はイメンディンゲン村の森から譲渡されています)による暖房設備を設置しました。これらのソーラーコンプレックス社からの熱は1kWh当り4,9セントで家庭に供給されています。これは暖房用オイルの5分の1の価格に相当するそうです。
 この他にもマウエンハイムには年間約6万kWhを超える電力を発電する太陽光発電施設があり、これは村の電力需要の約半分に当たります。ソーラーコンプレックス社のプロジェクトによって設置された木質チップ暖房施設、地域暖房供給設備と太陽光発電施設のコストは160万ユーロにのぼりました。このプロジェクトはマウエンハイムの住民が参加した合資会社によって資金を賄いました。住民からの投資は605,000ユーロ、その他はドイツ復興金融公庫(KfW)からの借り入れとバーデン・ブルテンベルグ州の木質エネルギー助成プログラムからの補助金です。この村のエネルギーに関するコストは地域経済の循環の中に留まり、住民の購買力に結びつきます。これまでマウエンハイムの住民は当時のお金で年間20万ユーロ(20年後には千万から2千万ユーロになる予測)をオイル暖房を通して村外に出していたのです。
 マウエンハイムの試みは市民が自分たちの電力、暖房熱を自分たちの地域で自給自足できることを示していますが、このようなビオエネルギー村(Bioenergiedorf)はドイツでは2006年のユンデ(Juende)村を皮切りに、マウエンハイム、フライアムトなどたくさん生まれています。ドイツでは日本と違った土地利用の仕方や余剰農作物があることから、日本でこのような再生可能エネルギー自給自足を目指した地域を実現しようとすれば、日本にあった(その地域にあった)仕方でなされるべきだと思います。しかし市民が自分の地域のエネルギーを自給しようとする試みはこれらのドイツの村の例からおおいに学べるところがあると思います。



参考
http://bioenergiedorf-mauenheim.de/media/bioenergie-mauenheim-infomappe_140808.pdf(ドイツ語)
http://www.spiegel.de/spiegel/spiegelspecial/d-50950632.html(ドイツ語)
http://www.ikeda-info.de/fileadmin/ikeda/ikeda-info/IkedaInfoDatei/Bioenergiedorf.pdf(日本語)