おばあちゃんの知恵袋から環境教育へ

おばあちゃんの知恵袋とよく言いますが、その知恵袋の中には一体何が入っているのでしょうか?そこには食べ物を無駄にしない料理の仕方や、困った時に役に立つ賢い知恵が詰まっています。 この知恵はおばあちゃんが長年の経験から自分で身につけたものや、おばあちゃんのおばあちゃんから代々引き継いできたものです。
さてここで言う“知恵“とは単なる知識だけではなく、経験を通して知っているということで、物事に在るエッセンスを理解していることだと思います。生きていく上で とても大切な事を自分の体験を通して、そして身を持って知っているということです。例えばパンの作り方を本を読んで知っていても、実際焼いたことがない人には、おぼろげにしか判らないのですが、何度も自分で焼いてみると、どのようにこね、発酵させて焼けばいいのかが判ってきます。このようにして身につけた事は自分の体の中で知識と一体となって、パンが発酵して膨らむように、その人の人生を豊かに膨らませてくれます。
ところで、江戸時代の江戸は既に100万人を超える大きな都市であり、循環型の社会だったと聞きます。それは地震や台風、農作物の不作などの厳しい自然環境を生き抜く上で、総てのものを活用していこうとつくられていった仕組みだと思います。しかしこのような無駄の無い社会の形は江戸時代に突然現れたのではなく、日本の風土のもとで長い間培われてきた古くからの知恵が伝えられ、活かされて出来上がっていったものだと思います。その土地の自然環境から学んできた知恵だからこそ、そこの風土に調和し循環したのでしょう。
しかし今日の社会を見てみると、このように長年受け継いできた知恵が果たして伝わっているのか、そして続けて引き継いでいこうとしているのか疑問に思います。学校では語学や西欧に始まった自然科学などの知識を伝えることに重点を置き、地域では近所のお年寄りと関わることがほとんどないような現状です。身を持って身につけてきた知恵や経験を受け継ぎ、そして伝えていくことは大切だと思います。その地域にはその風土から生まれた知恵があり、それがそこで暮らしていく力になります。これらの知恵はその地域の歴史の中にあり、そしてお年寄りの体の中に活きているものでしょう。私たちはそこから学び、"幸せに生きる"知恵を身 に付けていくことができるはずです。
そして自然の中で身に付けていった知恵ということに関していえば、インディアン、アイヌケルトなどの先住民族に伝えられている知恵が非常に貴重だと思います。彼らの知恵や自然に対する考え方は私たちの今後の社会にも大切なものを含んでいます。インディアンのイロコイ族に伝わる口承史の中にこう在ります、「いざ、このすべてを守っていこう。子どもたちの子どもたちの子どもたちが二度とふたたび、見知らぬ新しい土地をなんの助けもなしに歩かなくてすむように。・・・」これは厳しい海峡を長い縄を縒ってやっとのことで渡りきり、始めてみる動物を工夫して狩りをして冬支度をした時の話です。彼らは自分達の子孫のことを思って、大切なことを伝えてきたのでしょう。このような思いが詰まった洗練された知恵を今の私たちも知ることが出来るのはあり難いことではないでしょうか?
現在、地球という自然の中でうまく調和して私たち人間が生きていくために、環境教育の大切さが問われていますが、私たちの周りの自然について学ぶことと共に、上に挙げたような地域に伝わっている知恵をもう一度見直すこと、そして他の民族の優れた点を見い出すことが大きな助けになると思います。