ビオトープ保護について

ビオトープとは生物生息空間と訳されることがありますが、特定の空間にいる全ての生物達の生息空間という意味です。ドイツではよくビオトープ保護(Biotopschutz)だとかビオトープ維持(Biotoppflege)だとかいう言葉が自然保護や生物の多様性保護、環境保護の分野でよく使われています。生態系(Ökosystem)というのは空間的にはもう少し大きく、ビオトープがいくつか集まっていて、生息空間という生物の生きている空間というより、全体の構成要素(土壌、光、気温、大気、生物、無機物など)同士の関係について言っている言葉だと思います。僕は個人的にはこの生態系という概念の方が、さきほど挙げた自然保護などの分野においてはビオトープよりも適っていると思いますが、それについてはまた違う機会に話そうと思います。
今日はビオトープ保護について、人間の活動という要素を見ていきたいと思います。さてこのビオトープ保護と聞くと多分多くの人は、人間の活動をなるべく抑えて自然をなるべく破壊しないように、そのままにして置くというようなイメージを持つかもしれません。もしそのような人間の近くでは生息できないような、もしくは広大な手付かずの自然が必要な動植物であればそうなのですが、そうでない種類の動植物もいるのです。ヨーロッパは特に中世頃にはほとんどの場所に人間が関与していて、原生の自然は今では中央ヨーロッパに限っていえば無いと言えます。そのような歴史と環境の中で多くの生物がその条件に適応して生きてきました。またこのような人間の手の入った環境を好む動植物がヨーロッパで人間の近くで生きるようになったのです。
それでは現在はどうかというと、歴史的な農業や林業は殆ど無くなってしまい、大型の機械で作業をし、化学的な殺虫剤や除草剤など使い直接利益にならない"害虫"や"雑草"を取り除くような"近代化"がなされています。この様な近代化は、長い間行われてきた人間活動によって形作られてきた環境を大きく変え、結果的にその環境を好んで生きてきた生物たちの生息場所(ビオトープ)を奪っているのです。このような歴史的なビオトープもやはり維持する価値があります。例えば人が収穫しやすいようにした低いリンゴの木には鳥が巣を作れないから、幹の太い大きなリンゴの木を植えるとか、下草を刈って、鳥が餌を見つけ易くするだとかいうことをします。それに対し、州や国、EU助成金を出して援助をし、希少になってしまった種を保護しようとしています。
日本でも里山の維持が大きな課題になっていますが、このような人間の歴史的な活動に合わせてきた動植物(トキなどもそうだと思います)をこの歴史的なビオトープの維持を通して保護していく、そしてうまく共存していくことが非常に大切だと思います。
その歴史的なビオトープの維持は同時に私達の地域の景観をも維持し、長い間慣れ親しんできた、美しい田園風景、里山の景観を残していくことにもなります。ここに人間と自然のよい関係が現れているとぼくは思います。