森林官という仕事

先日(9月7日)大阪から来た学生と一緒に森林官のシュテファンにインタビューをして来ました。大学のクラブ活動で海外の農業について調べている彼ら学生はドイツの林業、特に私有林の経営状況に興味を持ってここフライブルクに研修旅行にやって来ました。僕達が話を伺った森林官はEmmendingen(エメンディンゲン)市というフライブルク市から電車で15分ほど行った所にある森を管理しています。僕が想像していたより遥かに若かったその森林官は雨の中2時間以上にもわたるインタビューにとても熱心にそして楽しく答えてくれました。
普段の彼の仕事は多岐に渡っていて、例えば私有林に対する助言、伐採計画、森林蓄積量の調査、市民に対する森の案内、子供の環境教育、マーケティング、狩猟の管理、道に面した木の安全管理などがあります。
彼の印象深い言葉は、"森林官は最高な仕事だ! 私の仕事はそれぞれの季節の中で豊かに自然と触れ合える。"と言って嬉しそうに喋ってくれたことです。
日本には無い森林官という制度ですが、面白いところは、ある一人の森林官が管轄する区域には市有林、私有林と異なる形態の森が存在しています(州によって行政体系は違います。)。その異なる森の管理や経営、指導、助言をするのが森林官の仕事ですが、無料で私有林の助言をするわけですので直接その土地の所有者から収入を得る訳ではありません。しかし森林官のシュテファンは私有林の助言を後回しにするどころか、先ずは個人の森林所有者のことを考えて優先的に助言をしに会いに行くらしいのです。それは個人経営者はその森から収入を得ている訳だから生活がかかっているのでなるべく私有林のことを優先すると言っていました。そして森が良い状態に保たれるようにと積極的に個人の森林所有者に連絡をとりコミュニケーションをはかっているそうです。
ドイツでも日本と同じように村から街に人口が集中し、特に若い世代が村から大きな都市に出ていくという現象が問題になっています。若い働き手を失った森は残された高齢の人達の手に負えなくなって放置されたり、親から譲り受けた土地に関心がなく森の所有者が分からない土地もあります。人と森(自然)の関係が希薄になってきて現代人は森をそんなに必要としなくなってきている、とシュテファンは言います。
その一方で薪の需要が増えてきているドイツではそれに従って薪の価格も上がって来ています。森林官のシュテファンに話を聞いている時もランニングしていたおばちゃんがシュテファンに対して薪が欲しいということを言っていました。日本でもそうした間伐材や、広葉樹の薪利用の可能性があるのではないかと森林官は指摘していました。木材を低コストで生産出荷するためには林道の整備が大切だと言います。バーデンブルテンベルク州では林道を私有林の敷地内に作る時にはその土地所有者のグループによるしっかりとした取り決めがあれば、85%まで経費を援助してくれるそうです。このようにしてドイツの森には林道が隈なく張り巡らされ効率的な林業が行われるようになっています。1年に1度程度整備されるという林道ですが、一般の車は通れず主に林業用の作業車と一般人の散策、ランニングなどの保養用になっています。
今回森林官の話を森の中で聞かせてもらい思ったことは、ドイツでは森(私有林も含めて)をより公共の物としてとらえているなぁということです。そしてインタビュー中に雨にも関わらず幾度となく通り過ぎる散歩やランニングをしている市民を見て、改めてドイツ人は森が好きなんだなぁと感じました。