森の幼稚園

 私は森が好きです。子供の時よく川や森、野原で昆虫採集や、友達と駆け回って遊んだ覚えがあります。その中でも森というのは子供の僕にとって特別な場所だったんじゃないかと思います。木がたくさん生えている森の中へ踏み込むと上から降り注ぐ太陽の光が葉っぱに遮られ暗くなり、さらに今まであった周りの住宅や道路も見えなくなり、辺りは緑や茶色の世界に変わります。この特別な空間で子供は自然と出会い、その自然の中で夢中で遊びまわります。
 さて、森の幼稚園というのはいったいどんな幼稚園なのでしょうか?森の中に建つ幼稚園を思い浮かべるでしょうか?しかしこの森の幼稚園は普通の幼稚園にあるような大きな建物はありません。ですから森自体が幼稚園なのだとイメージしてもらった方がいいかもしれません。雨の日も風の日も、そして雪の日もこの森で遊ぶわけです。大きな建物は無いといいましたが、大抵の森の幼稚園には小さな小屋みたいな建物はあり、暖をとることができます。


 約4年前に私は近所(フライブルク-カッペル)の森の幼稚園とはじめて出会いました。そして何度か幼稚園に遊びに行き、今でもイベントがあれば顔を出すことがあります。先週の土曜(10月9日)もこの森の幼稚園の、なんと10周年記念祭があり参加させてもらいました。私がはじめ行っていた時の子供たちはもうほぼ全員が卒業して小学校に通っていますが、たくさんの卒業生がこの記念祭に来ていました。
 この幼稚園は(3歳から6歳までの)約15人の子供たちと、先生が2人、あとは研修生がいます。グンター(幼稚園の先生)が10年前にこの森の幼稚園を始めたときは子供は2人しかいなかったそうですが、次の年には10人に増えそして今まで続いているそうです(子供の人数はうる覚えです)。そんなグンターはとても正義感が強く子供に対する時にはいつも真剣にそして誠実に接しています。もう一人の先生はグーテルンと言い、子供たちを易しく包み込むような非常に愛情深い女性です。二人ともとても幼稚園と幼稚園の子供たちのことを思いやっていてこんな幼稚園の先生は世界中探してもなかなか見つからないと思います。
 子供たちの様子はどうかというと、非常に活発で素直で子供らしい子供たちだと思います。もちろん子供同士でケンカしたり、先生のいうことを聞かなかったり、中には問題を抱えている子供もいますが、それでも森の中で、よい先生に見守られ、すくすく育っています。ここの森の幼稚園での遊びは、小屋の周りの森を駆け回ったり、絵本を読んでもらったり、パンを焼いたり、スコップで水路を作ってそこに水を流したり、絵を描いたりします。

 もう一つここで書いておきたいことは、先生と子供たちの親の関係です。月に一度先生、親、研修生がどこかの家に集まって会議をするそうです。そこでは、子供たちが普段どういう様子なのか、どういった問題があるのかなどを話し合い、先生たちと親のコミュニケーションをはかっています。だから先生と親たちの距離がとても近く、お互いのことを解り合っているんだと思います。幼稚園に限らず、子供を育てていく上でこのような先生と親との対話はとても大切だと思います。子供の変化に両方の場から気づくことができるし、何よりも対話を通してお互いを理解し、子供の成長を協力して見守ることが出来るでしょう。
 森の幼稚園という形はとてもいい教育方法だと思います。私たちの生活の基盤である生態系を森の中で、肌で感じ自然とは何かということを、3歳から6歳という人間の成長の重要な時期に、頭ではなく体で学ぶことが出来るからです。色々な年齢の子供たちが一緒に遊ぶことにも意義があると思います。
 さて日本に目を向けてみると、まず森の幼稚園という形が成立する条件がとても厳しいと思います。日本人の多くが住んでいる東京23区などの大都市を考えてみると、そもそも森がないので、子供を森の幼稚園に通わせたいと思えば、子供を何時間もかけて森があるところまで送り迎えするか、引っ越すかしかないでしょう。しかしあまり田舎過ぎると今度は子供の数が少ないので、少し大きな町までいかないと幼稚園がないのではないでしょうか?
では、日本の森の幼稚園には未来がないのでしょか?私が持っている個人的な希望、理想は都市の中にも森とまでいかなくとももっとまとまった木が生い茂る場所を新たに確保したり、神社やお寺の森を幼稚園用に使うことが出来ないかというものです。そこに小屋を建てるのは無理かもしれませんが、近くの幼稚園から歩いて来ることも可能だと思います。車が多くて危険だというのはごもっともですが、その時間は車を通行禁止にするとか、制限速度を30キロにするだとかということをすればいいと思います。緑の少ない都市(の子供たち)にこそ私はこの「森の幼稚園」が必要だと思います。なんとかして子供たちがその成長期に周りの自然と深く触れ合う時間をあげたいと願っています。それが子供たちが今後幸せに生きて行く基礎になると私は思います。それがまた私たちの豊かな社会につながっていくでしょう。私たちはもっと真剣に子供の成長(教育)について考える必要があるのではないでしょか?ただ親が仕事をする時間に預けておく為の幼稚園ではいけないでしょう。