持続可能な社会について2

 前回は持続可能な発展とは?ブルンラント委員会についておおまかに見てきました。今回はOur Common Futrue(地球の未来を守るために)の内容をもう少し詳しく見ていきたいと思います。
 Our Common Futureの中で『持続可能な発展』(持続的開発と本文では表現)とは

”将来世代の欲求を満たす能力を損なうことなく、
現在世代の欲求も満足させるような発展 ”p66

としています。そして持続可能な発展は、優先されるべき世界の貧しい人々にとって必要なものであり、限界がある環境能力の範囲内においてなされることが重要だとしています。
そして「開発」という言葉についても説明していて、経済と社会の前向きな変革という意味を含んでいます。

”開発という用語はここでは、最も広い意味で用いられている。この用語は、第3世界の経済、社会の変化の過程に言及するときに用いられる。・・・” p61
”人間の欲求と願望を満たすことが開発の大きな目標である。開発途上国に住む膨大な数の人々が生きていく上での必要不可欠な条件、食糧、衣類、住居、仕事は現在不満足なものであり、・・・”p67

そして補助的な定義として持続可能な発展を

”現在、将来の人間の欲求と願望を満たす能力を高めるための変革である。”
”つまり、天然資源の開発、投資の方向、技術開発の方向付け、制度の改革が相関係し合って変化していく過程”

であるとしていまうす。私はここで定義している内容はとても重要だと思います。『持続可能な開発』という言葉だけを聞くと、一見人は今までの社会がしてきたような「開発」が目的のもののように捉えてしまいがちですが、ブルンランと委員会が意図する本来の「開発」という言葉の意味は、今までの環境に負荷を与え続けてきた社会の制度、南北問題のような不公平な世界の大勢の”変化”を目指したものなのです。この補助的な意味が忘れ去られて『持続可能な発展』という言葉が独り歩きして、誤解を生んでいるような気が私はします。だからここのところをしっかりと意識することが大切だと思います。
 そして本書ではその中でも貧困問題を挙げて重要な課題だとしています。

”私たちが改善しなければならない問題は、貧困に根ざし、また短期的な繁栄を追求することに根ざしている。”p48
”貧困のために、天然資源は無計画に消費され、それが環境にさらに圧力を加えている。”p74

 貧困の他にも人口、エネルギー、種と生態系、戦争などについて当時の現状分析とそれに対する提言が詳しく紹介されています。
 今回の記事を簡単にまとめます。『持続可能な発展』を目指す、ということをよく聞きますが、それはいったいどういう意味なのかということをOur Common Future(地球の未来のために)から紹介しました。そこでは『持続可能な発展』とは、現在と未来の個人の幸せ(基本的な欲求を満たすことが前提)を目標とした社会の構築を目指すものである。そしてそれは社会の制度の変化の過程の中で実現されるものである。としています。本書は1987年に提出された報告書ですが、その内容は未だ色あせず、非常に視野の広い優れた報告書です。しかしながら非常に残念なことに本書は日本語訳がとても理解しづらく、さらに(地球の未来を守るために 福武書店)は絶版になっています。このような優れた本が今後伝えていかれないのはおおきなマイナスになるでしょう。環境問題を学ぼうと思う人はぜひこの本を読んで下さい。何か得るものが必ずあるはずです。
 長くなりましたが、最後に少しだけ本書からの抜粋です。

 少数民族や原住民の伝統的な生活様式を経済開発が破壊しているため、特別の配慮が必要である。p33

 人々の欲求を資源基盤にふさわしいものとするためには、地球上の天然資源基盤を保護・強化しなければならない。工業国の高い消費レベルを改め、開発途上国の消費量を増大させて生活水準を保ち、予想される人口増加に対処するためにも、政策の大転換が必要である。しかし、自然保護は、単に開発目標次第とすべきではない。自然保護は、人間以外の生物と我々の将来世代に対する道義的責任である。 p82

 結局のところ、先進国であれ開発途上国であれ、人口問題は人間らしさの問題であって数の問題ではないのである。人間を単なる消費者とみなすことは誤解を与え、また公正ではない。人々の福祉と安全が開発の目的である。p126

 これら(少数民族)の社会は、人類を太古の起源と結びつける伝統的な知識と経験を広く集めた貯蔵庫とも言える。それが消滅することは、社会にとって大きな損失である。社会は、非常に複雑な生態系のシステムが維持可能なものとして管理する伝統的な技能から、多くのことを学べるからである。p143<<