交通事故


今回は交通事故について書こうと思います。野生動物の交通事故です。先日、ヨーロッパオオヤマネコ(Luchs)についての講演会で、シカの交通事故死の数を聞いてその多さにびっくりしました。ドイツ国内の数だと思っていましたが、州のみの数だったようでドイツ国内での野生動物の交通事故死(ロードキルと呼ばれます)の数を見てさらに驚きました。Baden-Württemberg州のみでは2008年4月から2009年の3月までのノロジカ、イノシシ、アカシカの交通事故死数は約2万8千頭にのぼり、ドイツ国内ではなんと約23万頭にのぼります。前に紹介したSteinkauzというフクロウも交通事故に会うことが多く、死亡原因の主な理由に挙げられます。この他の鳥や野生動物も生息場所に作られた道路を走る車によってたくさん死んでいっています。もちろんドイツだけではなく日本でも野生動物が交通事故の脅威にさらされています。例えばタヌキは年間少なく見積もっても11万頭以上が車に轢かれて死んでしまうそうです(出典)。沖縄の西表島に生息する絶滅危惧種イリオモテヤマネコは2010年には(10月まで)5件の交通事故死があり、同じ絶滅危惧種ヤンバルクイナは2009年には20羽が事故にあっています。
このような悲惨な事故を減らすために、動物用のトンネルや橋が作られ、フェンスが設置されているところもあります。新しいものでは光のフェンスというものがあり、道路わきに立てられた杭に付けられた反射板が車のライトに反射してフェンスのように見せるというものです。Baden-Württemberg州では2005年以来2000km以上に渡って光のフェンスが設置され、テスト区間において70%も野生動物の被害が減ったそうです(出典 Badische Zeitung ,2010.10.8.)。その他にも市民に情報を提供して危険な場所での安全な走行を訴える事もしています。
国土に張り巡らされた道路は野生動物のすみかも分断し、動物たちにとってこの上なく危険な代物です。事故が多く起きる場所では何らかの対策が必要で、特に希少動物種が住む地域では尚更重要になってきます。動物たちが突然の不運に見舞われないように私達は色々考え対策をしていくことが必要です。道路は人間にとって便利なものですが、動物にとっては彼らの住む土地の上にある草の生えない所なのです。だから彼らも勿論そこを通り過ぎることがある訳です。ですから少しくらいは動植物のことも考えて、私たちもそこを使わせてもらわないといけないと思います。これは権利とか義務とかいう問題ではなく人としての他者を思いやる心だと思います。人間はもちろん人間だけでは生きられず、その他の動植物、鉱物、空気などの中で生きているので、これらのものに対して、若しくはこれら総べてを含めた(人間もそれに含まれると思います)大きな自然というものに対して思いやるということが大切だと思います。このような考えは日本に伝統的にあるもので、日本以外でもインディアンやケルトなどの民族の中で培われた思想であると思います。
自分のことだけでなく他者(つまり周りの人から始まり知らない人、シカやタヌキ、カエルや蚊、アサガオやたんぽぽ、そして土や空気までも)を思いやることが人間らしく、心豊かに生きていくことにつながると思います。