ドイツの里山2

 前回に引き続きドイツの「里山」(雑木林)について書こうと思います。前回の最後に補足で書きましたが、里山という言葉は共通の定義を持っていません。ドイツにも「里山」はあります(ました)が、林業としてのみ使われた雑木林(萌芽林)についても触れるので、今回は簡単のために「萌芽林」という言葉を使います。
 ドイツの萌芽林は現在日本と同じように厳しい状態にあります。経済的な魅力を失ったこの萌芽林は放置されて大きく育ち過ぎ、切ってもひこばえが生えて来ないまで(若い木の方が萌芽しやすい)成長していたり、萌芽林を皆伐しそこにより収入の見込める建材用の木が植林されたりしています。私は先日ドイツのSaarlandとRheinland-Pfalzという所に行ってきました。そこで萌芽林の現場を把握するために萌芽林の所有者にインタビューをして来ました。その土地では古くはケルトの時代から製鉄用の燃料を得るために萌芽林を使用していたそうです。19世紀くらいからは皮なめし用の木の皮から採れるタンニンの生産をこの萌芽林(オークの林)から得ていました。
 私がインタビューした2人が持つ萌芽林はそれぞれ共同の土地で、日本の入会地のようなものです。村単位で土地を共同管理していて、それぞれの所有者にはそれぞれ決まった割合が割り当てられています(私がインタビューした所では"靴"や"足"を単位として使っていました。)。ここの萌芽林は今では暖房用の薪として使用されます。
 石油の価格が上り、環境保護の観点からもドイツでは石油以外の燃料源に対する需要が増えてきました。木材を使ったエネルギー源もその一つで今では薪、木材チップ、木質ペレットなどが注目されています。しかし昔ながらの斜面にある萌芽林からの薪を市場に流通させるのは経済的に難しいようです(前回書いたエネルギープランテーションは採算性がある。興味深い点ですので今後調べていきたいと思っています。)。この共有地では自分の家で使う分の薪を採っているのですが、インタビューをした2人が言っていた次のことが印象的でした。

「石油の価格や他からの影響を受けない暖房のエネルギー源を自分たちの森から得られるということは非常に魅力的だ。」

 彼らが所属する2つの共同体の萌芽林はシカの食害で若芽が食べられてしまい萌芽の更新がなされず大きな問題となっていて、フェンスを張るなどの対策がなされています。
 私が非常に面白いと思ったのは、SaarlandのWadrillという村の共同体が毎年行っている萌芽林共有地の場所決め(割り当て)の仕方です。昔ながらの伝統的な方法で行われ、自分の場所を示すハーゼルの木に彫るマークも代々伝わっているとのことです。私の「あなたにとって萌芽林はどんな意味がありますか?」という質問に

「この地域に長い歴史を通して生まれた文化を今私が実践し、それを引き継いでいくことに誇りを感じている。」

と答えてくれました。自分の生まれ故郷の文化を体現できるなんてことはそもそも今となっては非常に貴重なことだと思いました。(でも、この彼は若いころにはあまりそういうことには興味がなかったそうで、約10年前に故郷のこの村に帰ってきてからそう強く思うようになったそうです。)