送電塔の上に風車

 今日はとてもシンプルかつ新しい発電のアイデアを紹介します。送電塔の上に小型の風車を取り付けそのまま電気を送電線に送るというとっても簡単なでも素敵なものです。先日(9月14日)にFree Energy という建築家のヴォルフガング フレイによるグループがこの風車の設置アクションをメディアを呼んで行いました。そこに私も友人とお邪魔してきました。ヴォルフガングさん自ら送電塔にのぼり小型風車を2機設置しました。この小型風車の発電出力は風車1つにつき3〜5kWです。この日に取り付けられた風力発電機は直径3,2mの羽を持つ3,3kWと直径4,2mの羽を持った5,5kWの発電機でした。この発電機の価格は15,000ユーロ(約180万円)ですが、これは手作 業で作っているので高くついてしまうそうです。もしこれが大量生産されるようになれば価格は経済性に見合うものになる見込みです。

 この小型の風車の良いところは、風が弱くても回り電気を発電し、分散され取り付けられた総風力発電機の発電量は安定して生産されます。また送電線に直接つなげるので電気のロスが無く、電気を使う場所で電気を発電できます。ふつう風車を建設すると風車の支柱にかかる費用が総コストの訳6割に達します。でもこの小型風力発電機は既に立っている送電塔の上に設置されるのでこの費用が節約できるのです。短所としては出力が小さいこと、設置するためには送電塔を必要に応じて強化しないといけないこと、長距離の送電ネットワークに電気を送り込む場合、電圧を高圧に変換してからでないといけませんが、これは技術的にまだ問題があります。

 Free Energyの目標は10,000基の送電塔に送電塔1基につき100kWの風力発電機を取り付け合わせて1,000,000kW(1,000メガW)の出力をもった発電装置にしようというものです(100kW×10,000=1,000,000kW)。これは原発1基分の出力1,000メガWに相当します。つまり原発1基分が必要なくなるということです。バーデンブルテンベルク州には約3万基の送電塔があるそうです(ドイツ国内には約30万〜40万基)。

 こんなにシンプルな誰でも思いつくようなアイデアが今まで実践されなかったことに驚きながら、日本でも送電線を持つ地域独占電力会社を動かすか、発送電分離がなされれば実現できるのではないでしょうか?色々な素晴らしいアイデアがまだまだたくさん隠れていると思います。そんないいアイデアがうまく育てていけば原発はもう近いうちに本当に必要なくなるでしょう。

参照:Free Energy(日本語もあり)
http://www.freeenergyweb.eu/jp/start.html

EWS(シェーナウ電力会社)のウルズラ スラ−デックさんにインタビュー

 6月にシェーナウ電力会社に訪問し、スラーデックさんにインタビューさせてもらいました。とても清々しい笑顔の女性で、明るく優しいとても素敵な方でした。脱原発、市民のための市民による活動を目指し活動されています。この日は徳島県上勝町役場の視察に同行させてもらい、シェーナウ電力会社訪問に参加させてもらいました。徳島県からの視察の方達は、スラーデックさんのように、地域の電力会社を設立しようと今取り組んでおられます。地域の電力を自給自足するためドイツの市民による電力会社の事例を見学しに来られたのです。
 以下はシェーナウ電力会社見学の最後に、僕がスラーデックさんに行ったインタビューです。
 
おいかわ(インタビューアー):今の私たちの社会はたくさんの問題を抱えていると思いますが、どんな社会の理想像を持っていますか?
スラーデーク:明白な社会の理想像は正直に言うと今は持っていません。少なくとも社会の発展が現在突き当たっていて早急に必要なことは、私が思うに4年おきに行われる投票であるような民主主義から、もっと国民の底辺から発展させ、国民が本当の意味で参加するようにしないといけません。要するに早い段階、計画の時点で、例えば大きなインフラなどの計画に、市民が参加するということです。計画していることをただ伝えるのではなく、初めから市民を巻き込み、出来るだけ多くの容認を得ることなのです。市民はすべてに反対しているということは全くなく、何か初めから既にある計画を示され、それを強制されることに反対するんです。市民は出来るだけ良い解決策を見つけることを望んでいます。
お:『市民参加』が大切だということですね。
ス:はい、例として新しい送電線の設置について考えてみましょう。今新しい高圧送電線をどこかに通す必要がある場合、電磁場、電磁波によって付近に住む住人の健康被害が引き起こされることが考えられます。とても強い電磁波を出す物もあり、そうなるとその地域の地主は土地を失うことにもなります。旅行業が盛んなところでは旅行業が大きな打撃を与えられることになります。だから市民が、「この計画は全くよくなく、もっといい方法がある。」と言うことが想像できます。もちろん良い方法はあります。この電線を覆えば、電磁波障害は極端に抑えることが出来ます。
要するに、このような送電線を計画する時は、計画の初めの段階から、もしくはその前から、どのように送電線が敷かれるべきかを確定し、市民に対し「私たちはこういう計画をしています。これは、これこれこういう理由からここに送電線を敷くことは絶対に必要なことであり、他に道はありません」と説明しなければいけません。透明性があり、誠実に説明しないといけません。そうして市民と一緒によい方法を見つけ出さないといけません。一番良い方法というのは必然的に一番安いものであるべきだということではありません。でももし、市民の反対運動によってこの計画が数年から数十年遅れることがあれば、先ほどの例のような計画の初めから理性的にプロジェクトを進行させていくよりも多くのコストがもちろん掛かってきます。だから『市民参加』というのは我々にとって、そして新しい社会にとっての核心になると思っています。どのように私たちの社会が今後発展していくのか、市民が参加するということが実際に政治的な機能を果たし得るのかどうか、ということをはっきりさせることはとても重要です。ここで市民を参加させるということは、最終的にはもちろん経済的にも市民も利益を共有するということです。例えば私たちEWSは組合です。誰もが共同出資者になれ、EWSの経済的成果を分かち合うことが出来ます。電力供給においてはこのような形がふさわしいと思います。なぜなら、電力供給は全ての人に関係することだからです。でもどうして私たちの社会のほんの一部の人だけがそこから利益を得ているのでしょうか、どうして全ての人が、もちろん少ないかもしれませんが、そこから恩恵を得られないのでしょうか?これが私たちの社会発展のビジョンです。だからもちろんEWSは電力供給会社以上の役割を担っていて、EWSは社会を変えていく実際の活動をしているのです。
お:これはもう素敵な社会の未来像ですね。しかし当時、いったいどこからスラーデークさんはそんなに大きな力を得ていたのですか?
ス:それはグループで活動してきたからです。一人では絶対不可能でした。仲間がいるということはものすごく大切なことです。なぜならグループであれば補う合うことが出来るからです。誰かが気を落としている時でも他の仲間が、「いや、私たちはきっと成功するから、頑張ろう」と言って引っ張っていく。こういうグループのダイナミズムはとっても大切なんです。また遠くの大きな目標のみを見ないで、小さなステップを踏んでいくこと、そしていつも成果を出すことももちろん大切です。成果はさらに続けて仕事をする意欲を起こさせるからです。失敗すれば意欲も信念もゆらいできます。だから成功する小さなステップを踏んでいくことが重要なんです。そして成功したらお祝いをする。
お:それは素敵なアドバイスですね。当時一人一人のメンバーが強いモチベーションを持っていたと思いますが、どうしてですか?
ス:それはチェルノブイリ原発事故後に政府が何もしなかったことに対する不満だったと思います。当時の社会は何も変わっていかなかったのです。そうした不満は十分にモチベーションになりました。もちろん子供を持っていたということも当時のモチベーションに関係しています。例えば私は5人の子供がいます。もし子供が5人もいたら、子供が今後生きていくことになるこの世界の大事なことを後から取り組むということは考えられません。これは未来を見つめるようなものです。子供がいなくても社会には若い人、子供、少年少女がいます。彼らはみんな未来が必要です。全員がどうにかして取り組んでいかなければいけません。それで原子力を初めに何とかしないといけません。
お:私は今原発からの放射線がとても気がかりです。
ス:もちろんそうですね。
お:私は日本に帰って仕事を探し、そこで子供を持とうと思っているので、とても不安なんです。
ス:あなたの家族はみんな日本にいるんですよね?
お:はい
ス:そうでなかったら、ここ(ドイツ)に留まるって言えるのにね。
お:んー。いいえ。私は日本が好きですから。
ス:もちろんそうね。日本はあなたの故国ですものね。
お:だから私も反原発活動をしていきたいんですが、反対ばかりではなく、何かの為、未来の為に、素晴らしい社会の為に誰も傷つけることなく活動していきたいと思っているんです。
ス:ええ。でも誰にも迷惑がかからないようにというのは無理ですよ。人が何かに取り組む時にはいつも何かに迷惑が掛かって来るものです。でもこれは『どのように』やるかが問題なんです。攻撃的にも出来るし、友好的にも出来る。友好的な方がより良い方法です。明らかですね。そうすることによってより多くのことが達成できるんです。
お:私が今持っている大きな課題の一つは、南北格差、貧困問題をどのように改善していくかということです。
ス:そういう社会的なことですね。
お:はい
ス:そのような社会的問題は生態系の問題と密接に関わり合っています。世界中で多くの人がいまだに電気を使えていない状況をよく見てみると、これは教育を受ける機会がないということや、職を得る機会がないことと、つまり貧乏ということと関係しています。また健康を維持する選択肢がないといったこととも関連しています。つまりエネルギー問題は他の色々な事柄と、それは結局最終的にはその人の社会的な地位を決めている物ですが、関わり合っているのです。だから私たちは、生態系、社会、そして文化を合わせて言っているのです。これらは関連し合っていて、切り離すことはできません。何か一つのことに取り組もうとしたら、他のことにも取り組むことになるのです。
現在ドイツや日本などの富裕国は特別な責任を持っています。貧困国に対して何とかして公正さを持って対応していかなければいけません。幸運なことに若い人たちはこういったことに対して関心を持っています。上の世代の人達は残念ながらこういった感情が鈍感です。彼らはそのような問題に取り組もうとせず、誰か貧乏な人がいれば、その理由をその人が馬鹿だからとか、怠け者だからとかということに見出します。・・・(訳不明)
お:この時期たくさんのインタビューを受けていると思いますが、どうして何度も繰り返しお話をされているのですか?
ス:なぜなら私たちが取り組んでいることは重要なテーマであって、他の所でも取り上げられるべきだからです。日本でもアメリカでもエネルギー問題は重要で、これは世界中に共通した問題です。原発は一度事故が起こってしまえば結局全ての人が、もしくは少なくともとても大多数の人が、被害を被ります。気候変動の問題(化石燃料二酸化炭素排出)はいずれにしても全ての人に関係しています。要するに全ての人がこのような問題に取り組んでいかなければいけないのです。そのような事柄に貢献することが出来るのであれば、そうしていきます。
お:チェルノブイリ前もそのような考えを持っていたんですか?
ス:チェルノブイリ前は全くそんなことなかったんです。
お:でも既に環境に対して意識が高かったんじゃないんですか?
ス:いいえ、特別高いといったわけでもなかったですよ。80年代の初めはまだ今日のように「環境」はメジャーではなかったんです。「環境にやさしい」という言葉は当時普及していなかったんです。
お:この会社をこれから先どのように経営していきたいですか?特定の目標はありますか?
ス:様々な目標があります。可能な限り多くの自治体がその地区の電力供給を自分でするよう牽引すること。そしてその援助。可能な限り多くのきれいな電力(原発以外からの電力)を使う顧客を増やすこと。自分達自身、発電施設に関与していくこと。また発電施設の財政的な援助をしていくことなど、様々な目標があります。
お:エネルギーの節約がとても大切で、優先事項だとお話しされていましたが。
ス:そのことについても取り組んでいます。
お:でももし多くのお客さんが節電していくと、あなたの会社の収入が減るんじゃないですか?
ス:そのとおりです。でも顧客も増えていてその分は補われるので心配ないですよ(笑)。
お:個人的な将来の計画はありますか?
ス:それはここ(EWS)で取り組んでいることと深くかかわっています。私の愛する私の大家族のことももちろん大切です。それはそうですよね。でも私の子供たちはもうみんな大きくなって、それぞれの人生を歩んでいます。だから私にとってはこの反原発の取り組みが私の人生の重要な課題なんです。私個人としては、ドイツの全部の原発が止まるのを生きのびて体験したいですね。
お:もちろんできますよ!
ス:それが私の個人的な夢ですね。そうしたら幸せですね。
お:ありがとうございました。

時間が無くてできなかった質問をメールにてしました。
お:環境問題、社会問題で今一番大きな問題とはなんですか?
ス:エネルギー問題が一番重要な問題だと私は思います。なぜなら、大きな影響力(気候変動とその結果起こる事柄、原発の危険性)がある生態的な問題であるだけでなく、社会的な問題でもあるからです。世界人口の20%の人が80%のエネルギー資源を消費しています。人類の多数の人達がエネルギーを得る機会がそもそもないのです。これは健康、経済的状況、教育の問題の結果からくるものです。しかしながらこのような貧困層が、気候変動に主に責任がある富裕国よりも、気候変動の結果起きる事柄により苦しめられることになります。これは富裕国への難民の流れ、難しい議論、そして戦争にもつながるでしょう。エネルギー問題の解決が世界平和にとって特に重要な意味を持っています。
お:あなたにとって「幸せ」とは何ですか?
ス:私にとって「幸せ」とは、誰かと一緒に私のビジョンと目標の為に取り組むことが出来、そして何か達成することです。

エコ電力供給会社

エコ電力(Ökostrom)って?
   エコ電力とは自然に優しい方法で発電された電力のことをいいます。この電力は再生可能エネルギー(風力、水力、太陽エネルギー、地熱、バイオマス)や環境にやさしいコジェネシステム(熱併給発電)を利用したもので、環境に負荷をかける原子力化石燃料からの電気と区別されています。



エコ電力供給会社(Ökostromanbieter)って?
   エコ電力供給会社はエコ電力を供給している電力会社のことです。このエコ電力供   給会社が供給する総電力の内、少なくとも半分以上が再生可能エネルギーからの電力です。総電力の50%までを天然ガスを使ったコージェネシステム(熱併給発電)による電力で賄ってもいいことになっています。地域の自治体による電力会社や市民、環境保護団体によるものなどドイツ国内にたくさんあります。


エコ電力供給会社への変更の勧め
   ドイツでは電力供給会社が一般消費者も自分で選ぶことが出来ます。原発(や火力発電)からの電力を買わないということが出来るのです。  先ず私たちがお勧めするのは、自分が住んでいる地域の自治体(市町村)による環境にやさしい電力供給会社です。自分の地域に根差した電力会社ですので、電気代としてのお金が自分の地域で回るので、地域の活性化にもつながります。もしそのような電力会社が無いのであれば以下のエコ電力供給会社をお勧めします(会社名をクリックするとその会社の契約変更のページに移動します)。
(例えばフライブルク市でバーデノバ社(badenova)と契約している一般消費者であれば既にエコ電力が供給されていますので、先ずは自分が契約している電力会社を調べてみるのが第一歩です。原発を持っているドイツの4大電力会社EnBW、E.ON、RWE、Vattenfallであれば早急に契約変更をすることをお勧めします。)


EWS (Erektrizitätswerke Schönau) / シェーナウ電力会社
シェーナウ電力会社はドイツ南西部の有名な黒い森(シュバルツバルト)のなかのシェーナウ市にあるドイツ初の市民による電力供給会社です。チェルノブイリ原発事故をきっかけに自分たちの子供のことを心配した「親の会」から出発したものです。市民のための電力会社として、市民活動が成功した例として希望を与えてくれる電力供給会社です。


Greenpeace Energy / グリーンピースエネルギー
グリーンピースエネルギーは環境保護団体グリーンピースのキャンペーンから生まれた電力会社です。この会社はエコ電力を提供するとともに、発電施設も建て、エネルギーシフトを政治のレベルにも促しています。グリーンピースエネルギーの電力はほとんどがドイツとオーストリアの水力によるものです。

Naturstrom AG / 自然電力-電力会社    
自然電力-電力会社はいくつかの環境保護団体が設立したものです。この会社は販売電力1kWh当り1,25セントを再生可能エネルギーの拡大に投資しています。地域の風力、水力発電からの電力を供給しています。


Lichtblick AG / 希望の光-電力会社  
希望の光-電力会社は企業によって設立されたエコ電力供給会社です。エコ電力を供給する会社としては一番大きく、契約者は約60万件に上ります。この会社の電力はおほとんどがノルウェー水力発電からのものです。

エコ電力へ切り替え(脱原発へ)

 エコ電力とは再生可能エネルギーや自然に優しいコージェネ発電などからの電力のことを言います。つまり環境に負荷のかかる原発化石燃料によって発電された電力が入いっていない電力のことです。ドイツでは自分の家の電力配給会社を選ぶことが出来ます。要するに脱原発に賛成する人はこのエコ電力を売る電力配給会社からの電力を買えるのです。ヨーロッパ(EU)では電力の自由化が1996年(2003年改訂)に決まり、発電部門と送・配電部門の分離(送電系統運用者の別会社化など)や電力の小売市場の自由化が段階的になされたのです。日本ではこのように一般消費者が自分で電力を自由に選択するということはできません。電力の自由化がドイツと比べまだ範囲が限られていて、地域独占している電力会社が発電、送電、配電とすべてにわたって牛耳っているからです。ですから一般の私たちは自分の家の屋根に太陽光パネルを設置したりして発電しない限り、原発を持っている地域の電力会社からしか電力を買えないということです 。ではいったい脱原発を推進したい一般消費者はどうしたらいいのでしょうか?電力供給会社を自分で選べないのであれば、出来るように電力の完全自由化の法整備を政府に対して求めていくことが必要です。このような法律が出来るまでは太陽光パネルを設置して自分で発電して自分で消費することも考えられます。または、再生可能エネルギーの分野、例えば風力や太陽光パネル、バイオガスなどのプロジェクトに投資することも出来ると思います。その他にも脱原発のデモに参加したり、政治家に自分の意見をメールや手紙などで伝えることも有効かもしれません。先日ドイツに視察に来た徳島県上勝町では電力会社を設立して再生可能エネルギーで町内の電力を自給自足(発電、託送、町民に売電)しようという試みがなされています。 このような自治体の活動を支援する、立ち上げるといったことも可能でしょう。
 現在海外に住んでいる多くの日本人も日本の脱原発に何かしら貢献したいと考えていることでしょう。日本の脱原発への道には直接的な方法ではありませんが、自分が今住んでいる国の原発停止はいずれ日本の脱原発にも良い影響を及ぼすはずです。ここフライブルクは約25km離れた所にヘッセンハイムというフランス領土にある原発を持っています。この原発はフランスで1番古い原発で、しかも最近運転期間の延長が許可されました。この原発が福島のような事故を起こせばフライブルクはだめでしょう。でも事故を起こさなくても原発は子供にとっては十分に危険な低線量の放射性物質を出し続けています。ドイツでは2022年までに原発を停止させることが決まりましたが、電力の約77%を原発に頼っているフランスのエネルギー政策を国外から変えるのとても大変でしょう。そして大きな利権が絡んでいる原発を止めるには、これらの利権とお金に目がくらんでいる政治家や産業界のリーダー達にそのまま任せていたのではほぼ無理でしょう。私たち市民が声を大にして、そして態度で示していかない限り変わっていきません。さて今ドイツに住んでいる我々は幸運なことに電力供給会社が選べます。例えば前回の新聞でも紹介したシェーナウ電力会社やグリーンピースエネルギーなどがドイツで一般家庭にもエコ電力を供給しています。このような信頼できるエコ電力を多くの市民が買うことによって、私たち市民が原発を欲していないということを解り易く表明できます。このような地道な行動と実績が脱原発の流れを少しずつですが着実に作り上げていくのだと思います。これはフランスのヘッセンハイム原発にも影響するでしょう。ドイツ市民の大半が反原発でその声と意思が非常に大きければ、フランスにも広がっていくでしょうし、ドイツに隣接する原発についてフランス政府は見直すはずです。
 私たちは自分自身の為そして自分の子供と家族の為に、さらには同じ社会に住む全ての人の為に行動しなくてはいけないと思います。自分たちの生活や安全など、大切な事柄について誰かに任せるのではなく、自分で考えて、感じたことを責任を持って自分たちで決めていかないといけないのではないでしょうか?そのためには自分たちが目指す生活がどんなものなのか、何が大切で何がそうでないのかという根本的なことを問い直すことが必要です。お金や利権が大切なのであれば原発がもしなくなったとしても、他の理不尽で危険な代物が市民生活を脅かし続けることになるでしょう。そうではなく私たちの社会をもっと魅力ある豊かなものにしていくにはこのような価値観を変えていくことが問題の根本的な解決につながっていくことと思います。市民一人一人が自分の家族や地域の幸せを考えて一歩ずつ進んでいくことこそが、脱原発そして豊かな生活を支えることになります。(戦後から今まで日本は経済の発展ばかりを追い続け、それまで大切にされてきた日本独自の文化や感覚がないがしろにされて経済的な裕福さを求めすぎてきました。この考え方が原発問題を含めた今の日本の社会問題の根底にあるように思います。この経済最優先の考え方を見直すべき時なのです。さてそれでは何が大切なのか?それは色々な場で議論する中で構築していくことが必要だと思います。私の意見を述べますと、まず「豊かな地域社会と環境とその中の個人の幸せ」が一番中心になるべきものだと思います。個人の幸せとその人が住んでいる社会とは非常に強いつながりがあるので、まず自分がもしくは自分の家族が幸せに暮らしたいというのであれば、その社会の在り方を良くしていく必要があります。近所に住む人との素敵な関係は個人の生活も豊かにします。このような人間関係、つまり信頼や思いやり、共感や団結といったものが私たちの社会の基本に大切なものだと思います。そして私たち人間は自然とのつながりの中でこそ人間らしく生きることができ、人間社会は自然の生態系の中でのみ活動していくことが出来るので、自然の中で他の動植物や物質と調和して生きることが大変重要です。)
 一歩ずつ脱原発を目指すために私たちエコフラはエコ電力を推進したいと思います。そのためにドイツ在住の日本人にエコ電力供給会社4社(EWS, Green Peace Energy, Lichtblick, Naturstrom)を紹介し、契約変更を勧めていきたいと思っています。契約の変更はごく簡単で、(EWSの場合、)今までの契約していた電力会社からのいちばん最近の請求書、電力メーターの現在の数値が必要で、あとはインターネットからダウンロードできる契約書に記入してメールか郵送で送ればいいだけです。こんな簡単なことをなんで今までしなかったのかということですが、そもそも知らなかったとか、めんどくさいんだろうなという理由で変更しなかったのだろうと想像します。その変更のお手伝いをしようということです。これが豊かな社会に続く小さいですが、確実な一歩になっていくことを望んでいます。


参照
Atomausstieg selber machen(脱原発は自分で) (ドイツ語)
http://www.atomausstieg-selber-machen.de/startseite.html
電力自由化の成果と課題
http://www.atomausstieg-selber-machen.de/startseite.html

バイオエネルギー村

 ここではドイツの農村地域における、再生可能エネルギー発電の取り組みを紹介します。先ずBioenergieDorf(ビオエネルギードルフ)とは、地域のバイオマスを活用した電力、(暖房用などの)熱の自給自足を目指した村のことです。ドイツでは2006年に誕生したJünde(ユンデ)村を皮切りに、現在では50を超える自治体がビオエネルギードルフになっています。その中でもフライブルクのあるバーデン・ブルテンベルグ州は一番多く、Mauenheim(マウエンハイム)を初めに17の自治体が既にバイオエネルギー村になっていて、さらに10もの自治体が現在この称号への道のりを歩んでいます(ドイツ全体ではこの他に4つの自治体がバイオエネルギー村を現在目指しています)。
 バイオマスとは生物量ともいわれ、エネルギーの分野では生物由来の木材や植物、家畜の排せつ物などの資源を指します。他の太陽光や風力などの再生可能エネルギーと比べ、バイオマスは太陽エネルギーを蓄えることができ、安定したエネルギー供給に有効です。Göttingenバイオエネルギー村研究所によると、コージェネ発電によって発電時の排熱を有効活用すること、村のエネルギー政策を住民参加を通して決定していくことによって地域への想いと共同体の絆を強くすること、さらに地域経済の活性化や環境にやさしいエネルギーを利用することなどを目標にしています。
 日本でも自分の地域のエネルギーは自分の地域からの資源を用いて自給自足することは夢ではないと思います。しかし日本の食料自給率は非常に低いので、農作物の余剰生産をエネルギーにまわすことは無理でしょう。他方日本の農村地帯には最近手入れがされなくなった里山林業における間伐材、食料品店や家庭から出る多量の生ごみがあり、これらがバイオマスとしてエネルギー原料となりうると思います。斜面のきつい日本の山からの林業残渣を活用するためには、作業用山道を作る必要がある、などといった問題はありますが、太陽光を利用した発電と温水、風力発電、地中熱利用など様々な可能性と一緒に模索することができると思います。その他にも海外からの食料品の輸入が多過ぎ、自給率が低いことから、何か起こった時(海外から輸入できなくなった時)には国民の食糧確保がとても大きな問題になることや、これら海外からの多量の食料品から出る生ごみが日本の国土を過剰に富栄養化し、輸入国の地から栄養を奪っています。こういった問題も総合的に考えていく必要ももちろんあります。
 それぞれの地域に育った文化のように、その地域に合った方法で、住民が主体となって動くことがキーポイントになっていくでしょう。


参照
Institut für Bioenergiedörfer Göttingen の資料(日本語)
Wege zum Bioenergiedorf(Bundesministerium für Ernährung, Landwirtschaft und Verbraucherschutz のサイトから(ドイツ語))

エネルギー自給、輸出村2

 今回はマウエンハイムという村の事例を紹介します。この村は2006年に再生可能エネルギーで自給自足に成功したバーデン・ブルテンベルク州では1番目の(ドイツではニーダーザクセン州のJühnde(ユンデ)村に次いで2番目の)“再生可能エネルギー村”です。
 マウエンハイムはボーデン湖の北西約30kmに位置する人口約430人の小さな村です。電力と暖房は完全に地域のエネルギー源で賄われており、ビオガス発電施設の排熱と木質エネルギー源で地域暖房を供給しています。マウエンハイムで鍵となったのはsolarcomplexという再生可能エネルギーを促進する市民による会社です(Buergerunternehmen:シビックアントレプレナー(企業家型公務員))。この会社は2000年に20人の出資者によって有限会社として出発し、現在(2011年はじめ)では共同出資者は700名になり資本は37.500 ユーロから500万ユーロになって、2007年から株式会社として経営されています。このソーラーコンプレックス社は2030年までにボーデン湖の地方のエネルギーを地域の再生可能エネルギー源によって賄うことを目標としています。このビジョンは生態学的な利点があるだけでなく、地域経済にとっても大きな利点になります。つまりエネルギー源を買うお金は地域の外に出て行かずに(石油などのエネルギー源を買うと、油田を持っていない地方、国ではお金がその地域外に出ていってしまいます)自分の地域に購買力として留まるのです。ソーラーコンプレックス社が所有する施設はLangenriedとMesskirchにある太陽光発電パーク、約30の太陽発電施設、Gailingenのビオガス施設、(Mauenheim、Lippertsreute、Schlatt、RandeggとLautenbachにある)地域暖房用の木質チップを使った暖房設備、ザンクトゲオルゲンにある2,3MWの出力を持つ風力発電機があり、これらの発電・発熱施設は2010年には約2400万kWhの電力と2000万kWhの熱を生産していています。
 さてマウエンハイムの話に戻ります。2005年にKCHバイオガス有限会社によってマウエンハイム村に140万ユーロをかけてバイオガス施設が建設され、電力と熱(熱は2006年から)を供給しています。このKCHバイオガス有限会社は村の農家エリッヒ・ヘニンガーさんとラルフ・ケラーさん、近郊のラドルフツェル市のクリーンエネルギー社が共同で出資して作った会社です。バイオガス施設は年間400万kWhの電力を供給しており、これはマウエンハイム村の電力需要の約9倍に当たります。さらに発電時に出る排熱は年間約350万kWhで、村の暖房需要に相当する値です。この排熱は当初村の100世帯のうち66世帯が暖房用として利用し、現在では72世帯が温水配管をつなげています。このバイオマス発電施設では、近辺の180ヘクタールの農地からとれるトウモロコシなどの発酵用植物が年間約6,500トン、近隣の牛小屋からのふん尿が集められ発酵し、発電用ガスを作り出しています。
 このマウエンハイムの地域暖房設備を実現したのが上で紹介したソーラーコンプレックス社なのです。KCHバイオガス有限会社はこの発電時に出る排熱を地域住民の為に役立てようと決めましたが、この100世帯の田舎の村では簡単ではありませんでした。ソーラーコンプレックス社がこのことを聞き、マウエンハイムの地域暖房構想を思いついたのです。バイオガス発電施設からの熱はソーラーコンプレックス社に無料で提供されます。(ドイツの再生可能エネルギー法では、再生可能エネルギー源による発電の際に出る熱を利用すると1kWh当たり3セントが補償されるので、KCHにとっても好都合です。)そうして石油による暖房より安く住民に提供しようとしたのです。ソーラーコンプレックス社は、マウエンハイムがあるイメンディンゲン村議会とマウエンハイム区議会の両方の一致した決定を得て全長約8kmの配水管(約4kmにわたる溝)を設置しました。新興住宅地でもないのに7割もの世帯がこの設備に参加したのは、ソーラーコンプレックス社の地道な説得活動によるところが大きかったようです。説明会だけでなく、村の公民館の一室を借りて個別の疑問点などにも積極的に答えて言ったそうです。こうして、もともと暖房施設を大抵の家が持っていたのにもかかわらず、村の7割もの建物がこのプロジェクトによる地域暖房システムの恩恵を受けているのです。このバイオガス施設からの排熱のみで夏場の温水はまかなえますが、冬期には不足します。この不足分を補うために、ソーラーコンプレックス社は冬の半年だけ稼働させる約1メガワットの木質チップ(木材はイメンディンゲン村の森から譲渡されています)による暖房設備を設置しました。これらのソーラーコンプレックス社からの熱は1kWh当り4,9セントで家庭に供給されています。これは暖房用オイルの5分の1の価格に相当するそうです。
 この他にもマウエンハイムには年間約6万kWhを超える電力を発電する太陽光発電施設があり、これは村の電力需要の約半分に当たります。ソーラーコンプレックス社のプロジェクトによって設置された木質チップ暖房施設、地域暖房供給設備と太陽光発電施設のコストは160万ユーロにのぼりました。このプロジェクトはマウエンハイムの住民が参加した合資会社によって資金を賄いました。住民からの投資は605,000ユーロ、その他はドイツ復興金融公庫(KfW)からの借り入れとバーデン・ブルテンベルグ州の木質エネルギー助成プログラムからの補助金です。この村のエネルギーに関するコストは地域経済の循環の中に留まり、住民の購買力に結びつきます。これまでマウエンハイムの住民は当時のお金で年間20万ユーロ(20年後には千万から2千万ユーロになる予測)をオイル暖房を通して村外に出していたのです。
 マウエンハイムの試みは市民が自分たちの電力、暖房熱を自分たちの地域で自給自足できることを示していますが、このようなビオエネルギー村(Bioenergiedorf)はドイツでは2006年のユンデ(Juende)村を皮切りに、マウエンハイム、フライアムトなどたくさん生まれています。ドイツでは日本と違った土地利用の仕方や余剰農作物があることから、日本でこのような再生可能エネルギー自給自足を目指した地域を実現しようとすれば、日本にあった(その地域にあった)仕方でなされるべきだと思います。しかし市民が自分の地域のエネルギーを自給しようとする試みはこれらのドイツの村の例からおおいに学べるところがあると思います。



参考
http://bioenergiedorf-mauenheim.de/media/bioenergie-mauenheim-infomappe_140808.pdf(ドイツ語)
http://www.spiegel.de/spiegel/spiegelspecial/d-50950632.html(ドイツ語)
http://www.ikeda-info.de/fileadmin/ikeda/ikeda-info/IkedaInfoDatei/Bioenergiedorf.pdf(日本語)

エネルギー自給、輸出村

 今日は前回のシェーナウに引き続き再生可能エネルギーに関するドイツ市民の活動の紹介をしたいと思います。フライブルクの北約25kmに位置する人口約4200人の村フライアムト(Gemeinde Freiamt)は、1997以来、再生可能エネルギー源を使ったエネルギー供給への道を歩き始め、現在村のエネルギーを自給自足しているばかりか余剰発電した電力を村外に輸出しています。2008年にはドイツソーラー賞を受賞しています。
 フライアムトでは毎年約1400万kWhの電力を再生可能エネルギー源によって発電しています。約200万kWhがこの村の需要以上に供給されていることになります。約200個の太陽光発電施設は約2,600kWpの発電能力があり、太陽光発電施設はさらに増え続けています。4つの風力発電機はそれぞれ出力1,800kWがあります。この風力発電機の建設は1997年に設立された「フライアムトで風力発電機を促進する会 (Verein zur Förderung der Windenergie in Freiamt)」によって推進されていきます。この会は風向、風速を測る塔建て調査しました。この調査の結果は風力発電機設置にとても好ましいものだったので、1999年秋に2基の風力発電機の建設を申請しました。2000年にこのプロジェクト実現のためにFreiamt Windmühlen GmbH & Co. Beteiligungs KGという合資会社を設立し、約150人の共同出資者が参加しこの風力発電機2基が建設されました。その後2基の風力発電機が建てられ現在稼働中のものは4基になります。フライアムトには水力発電機もあります。4つの小規模水力発電施設は2つの製材所と1つの水車で製粉するパン屋さんで使われており(製粉時はうすの動力に、製粉で使用しない時に発電タービンに接続)、過剰発電分は売電されます。さらに2つのビオガス暖房、発電施設があります。2002年に340kWの発電出力を持った(熱出力540kWで)一基目が、2007年に190kWの発電出力のビオガスコージェネレーション施設が建てられました。この一期目は以前酪農家であったInge ReinboldさんがBSEと豚肉価格の下落によって農業経営が厳しくなり、電気技師であたった息子の勧めによって設置しました。Inge Reinboldさんは言います。「以前とそんなに変わっていないんですよ。以前牛たちに与えていた農場のトウモロコシ、穀物、牧草を今ではバクテリアに与えているんです。」この2つのビオガス施設は、発電すると同時に発電時に出る熱も温水として家庭に送られ、使用されます。700mの配温水管が敷かれ、それを通して約80℃の温水が家庭では70℃で得られるようになっています。このビオガス発電の原料はトウモロコシや牧草、家畜のふん尿なのですが、これらを近くの農家からもらい、その代わりに、ガス発生後にできる堆肥を農家に渡します。農家は家畜のふん尿の処理が出来さらに堆肥をもらえ、発電施設では原料を譲り受けることが出来るのです。たくさんの木質チップを使った暖房設備がありますが、この原料である木材はフライアムトの森から得られる間伐材などを利用しています。酪農家の所有する森などから得られる“廃材”を木質チップにし自分の家の暖房に使い、余ったチップは売られます。面白い熱の利用方法もあります。フライアムトは酪農業が盛んです。酪農家は牛乳を出荷する時に約32℃から4℃まで冷やしますが、この“排熱”を捨ててしまわず利用しようというものです。(熱交換器とヒートポンプという)装置を使い(40℃の)温水を得ることが出来るのです。
 フライアムトのようなエネルギー自給、輸出村の成功は再生可能エネルギーが環境にやさしいだけでなく、市民に実益をもたらすことを示しています。市民は他のエネルギー源に頼ることなく自分の家の屋根に降り注ぐ太陽エネルギーや山にふく風を利用して自分たちの生活に必要なエネルギー(電力や熱)を作ることが出来るのです。価格の変動が激しい石油などからの影響が少ないだけでなく、このような燃料を遠いところから買う必要が無くなります。さらにこれらの再生可能エネルギー電力は高く売ることが出来るので(ドイツでは既に全量固定価格買い取り制度があり発電した電力を売り、それより安値の電力を買っています。日本では2012年から実施の方向)設備投資など諸経費を返済すれば利益も上がるわけです。このような魅力が大きかったことが市民の運動を後押しし、環境意識と相まって成功したのだと思います。日本でもこの全量買い取り制度が決まれば、現在の脱原発の流れと相まって大きな市民運動の流れになるのではないでしょうか?前回紹介したシェーナウの電力供給会社EWSの市民活動と共に日本の未来の明るいエネルギー政策のヒントとなればと思っています。


参照
Gemeinde Freiamtのホームページ(ドイツ語)
http://www.freiamt.de/erneuerbare_energien.php
Kommunal Erneuerbar - So wird's gemacht(自治再生可能エネルギー;ビデオ、ドイツ語)
http://www.solarserver.de/wissen/videos/kommunal-erneuerbar-so-wirds-gemacht.html
Badische Zeitun(バーデン新聞)
http://www.badische-zeitung.de/freiamt/freiamt-im-schwarzwald-gilt-als-vorbild-fuer-die-neue-stromproduktion
Badische Zeitung(バーデン新聞)
http://www.badische-zeitung.de/freiamt/racing-team-setzt-voll-auf-biogas--43054753.html